障害年金「精神の障害」と「就労」の関係 | かなみ社会保険労務士事務所

うつ病や双極性障害、統合失調症など精神の障害で障害年金を請求(申請)する方から「働いていると障害年金はもらえないですよね?」とよく質問を受けます。ここでは、精神の障害の障害年金と就労の関係について解説いたします。

就労について障害年金認定基準では

まず、障害認定基準や「精神障害に係るガイドライン」に、就労についてどのように記載されているか確認します。

障害認定にあたっての基本的事項

障害の程度を認定する場合の基準は、国年令別表、厚年令別表第1 及び厚年令別表第2に規定されており、障害の状態の基本は、次のようにされています。

※障害等級3級は障害厚生年金のみ


【障害等級1級】

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。


【障害等級2級】

身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。

この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。


【障害等級3級】

労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。

 

精神障害の障害認定基準

日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。

 

精神の障害に係る等級判定ガイドライン

障害認定基準を補足するものとして、平成28年9月より「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が運用されています。このガイドラインにより、障害等級の判定時に考慮すべき事項の例が次のように示されています。


【等級判定で考慮すべき事項】

  • 労働に従事していることをもって、 直ちに日常生活能力が向上したものと 捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。
  • 援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する。
  • 就労系障害福祉サービス(就労継続 支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。
  • 障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する。
  • 就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面及び就労以外の場面の両方の状況を考慮する。
  • 一般企業(障害者雇用制度による就労を除く)での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する。
  • 安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する。
  • 発病後も継続雇用されている場合は、従前の就労状況を参照しつつ、現在の仕事の内容や仕事場での援助の有無などの状況を考慮する。
  • 精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する。
  • 仕事場での臨機応変な対応や意思疎通に困難な状況が見られる場合は、それを考慮する。

 

障害年金診断書 記載要領

医師の資料となる「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」にも就労についての考え方が次のように記載されています。

  • 就労している事実だけで、障害年金の支給決定が判断されることはありません。
  • 就労の有無を本人や家族などから聴きとり、できるだけ記入をお願いします。
  • 仕事場の内外を問わず、就労を継続するために受けている日常の援助や配慮の状況も、できるだけ記入をお願いします。
  •  現症日以前一年間に病気休暇または休職の期間がある場合は、「仕事場での援助の状況や意思疎通の状況」欄に、病気休暇や休職の時期(始期及び終期)及び就労復帰後の状況をできるだけ詳しく記入してください。
  • 現症時に就労していないことを聴取されている場合には、「勤務先」のその他欄に、その旨の記入をお願いします。

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働いてると障害年金は不支給?

障害年金認定基準や等級判定ガイドラインには、「働いてるといると障害年金は不支給」という記載はありません。

医師用の記載要領には「就労している事実だけで、障害年金の支給決定が判断されることはない」とも書かれています。

反対に、障害等級2級程度の障害の状態は「労働により収入を得ることができない程度のもの」つまり、仕事ができないような病状であるとされています。

精神の障害の場合、他の疾病のように病気の程度を表すような数値的な指標がないため、「日常生活能力の判定」や「日常生活能力の程度」で年金の等級を判断する指標にしています。このため、働いているという事実だけで日常生活能力があると見られたり、障害の状態が軽くなっていると判断されることがあるのです。

「働いている」といっても、「家族のためや生活のために無理をしてがんばっている」方もいらっしゃいます。「働いている」=「日常生活が向上」しているとはいえない場合もあります。

障害年金を請求(申請)をする際は、日常生活の制限の度合いとともに、「精神障害に係る等級判定ガイドライン」で記載されているポイントを具体的に伝えることが重要になるのです。

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就労状況をどのように伝えるか

障害年金の審査で必要とされた場合に提出を求められる書類で「日常生活及び就労に関する状況について(照会)という様式があります。

障害年金を請求(申請)する際に提出する書類ではありませんが、あらかじめ提出することが可能ですので、照会様式の内容を参考にし、具体的な就労状況の申立てをに活用します。


「日常生活及び就労に関する状況について(照会)」の内容

  • 就労内容(職場における自分の担当する仕事の内容等)
  • 仕事場で他の従業員とのコミュニケーションの状況
  • 仕事場で受けている援助の状況をご記入ください。(援助の内容、頻度)
  • 就労を継続するために、家族や専門職等から受けている職場外での支援内容等
  • その他(欠勤等を含めた勤務状況等)
これらの項目は、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」において、就労状況について考慮されているポイントになります。
就労状況については書類に記載がなければ、審査では考慮されることはありませんので、どのような働き方になっているかが伝わるようにすることが重要になります。

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精神の障害で働いてる時に障害年金を請求(申請)するポイント

「就労」と言っても、「厚生年金の被保険者として働いている」「休職中」「短時間の就労」「障害者雇用」「就労継続支援事業所」など、様々な働き方があります。また、会社の内部で支援を受けて働いている場合や外部支援を受けながら働いている場合もあります。ここからは、精神の障害の方が就労している場合で障害年金を請求(申請)する際のポイントを解説します。

厚生年金の被保険者として就労中の場合

厚生年金の被保険者としてフルタイムで就労をしている場合は、2級以上の認定は難しいのが現状です。

3級の認定を考えるなら「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」で審査の際に考慮すべき事項を参考にします。

現在の仕事の内容や仕事場での援助の有無、意思疎通に困難な状況など、就労の実態を「病歴・就労状況等申立書」や日常生活及び就労に関する状況について(照会)」を参考に、具体的に認定医に伝えることが必要です。
病気のことを会社側にオープンにして就労しているなら、上司や同僚に協力を求めて、第三者からの申立書とするのもよいでしょう。
病気のために賃金が減額されていたり、遅刻や早退、欠勤などが頻回になっているなら、出勤状況が確認できる出勤簿や給与明細の写しなどを参考資料として提出するのも一つの方法です。

厚生年金の被保険者で休職中の場合

休職中なら健康保険制度から傷病手当金を受給します。
傷病手当金の受給期間は1年6か月が限度です。
障害厚生年金と傷病手当金が同一傷病の場合で、傷病手当金の受給期間が終了が近づいても復職できていない場合は、障害年金を請求(申請)することを考えましょう。
障害基礎年金として請求(申請)する場合は休職時に障害年金の手続きを始めるのもよいでしょう。
障害年金の請求時に注意すべきことは、休職中であっても年金の加入記録は「厚生年金被保険者」とされていますので、診断書の「現症時の就労状況」に「休職中」であることを必ず記載してもらいましょう。

短時間の就労をしている場合

基本的には厚生年金で被保険者として就労している場合と同じです。

日常生活や就労においてどのような支障があるのか、就労についてどのような援助が必要となっているのかなどを医師に伝えておき、診断書に記載してもらう必要があります。

働いても短期間で転職を繰り返していたり、週の労働時間が少なかったり、体調を考えて混雑した時間帯を避けての通勤などあれば「病歴・就労状況等申立書」や日常生活及び就労に関する状況について(照会)を参考にして具体的に認定医に伝えることが必要です。

 

内部支援や外部支援を受けている場合

就労を継続するために会社内で支援を受けていたり、障害者就業・生活支援センターなどの外部から支援を受けて就労している場合もあります。

それらの支援を受けて就労している場合でも、審査側にその事実を伝えなければ、審査で考慮されることはありません。

職場のジョブコーチや上司、同僚などによる細かい指導や見守りなどの援助があって初めて働いている場合は、具体的な就労状況について「病歴・就労状況等申立書」や日常生活及び就労に関する状況について(照会)参考にして申し立てます。

就労支援センターや就労移行支援の支援員の協力が得られるようなら、就労状況について申し立ててもらうのも一つの方法です。

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障害年金は書類審査です

障害年金認定基準や精神の障害等級ガイドラインに記載があるように、就労しているからといって「不支給」や「支給停止」とはされていないのですが、労働能力や就労状況が認定に大きく影響を与えている現状があります。
障害年金の審査においては、日本年金機構の職員や認定医などが請求者や会社などへ直接訪問して就労状況などを調査することはなく、すべて書類上の審査になります。
このため、障害年金を請求(申請)する場合には、就労についてどのような援助が必要か、どのような就労状況なのかを認定医に具体的に伝えることが重要になるのです。

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投稿者プロフィール

松田康
松田康社会保険労務士 (障害年金専門家)
かなみ社会保険労務士事務所
社会保険労務士 27090237号
年金アドバイザー
NPO法人 障害年金支援ネットワーク会員

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