うつ病で障害年金を申請(請求)する方法を解説 | かなみ社会保険労務士事務所

うつ病により日常生活に支障がでている場合には障害年金の対象になります。
ここでは、うつ病で障害年金を申請(請求)する方法やポイントを解説します。

うつ病の障害年金認定基準

うつ病の障害認定基準は次のようにされており、それぞれの等級によって支給額が決まります。※3級は障害厚生年金のみ。支給される障害年金額は等級別の障害年金の年金額をご参照ください。

等級 障害の程度
1級 高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの
2級 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの
  • 気分(感情)障害は、本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すため、現症のみによって認定することは不十分であるとされており、症状の経過やそれによる日常生活活動等の状態が考慮されます。
  • 日常生活能力等の判定に当たっては、身体機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断されます。
  • 人格障害は、原則として認定の対象となりません。
  • 認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断されます。

障害年金の審査で考慮される項目

障害年金の審査では、療養病状や生活環境等の様々な要素を考慮され、最終的な等級が決定されることになります。うつ病で障害年金を申請(請求)する際は、これらの項目を「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」などで伝えるようにします。

病状又は病態像

  • 現在の症状だけでなく、症状の経過(病相期間、頻度、発病時からの状況、最近1年程度の症状の変動状況など)及び、それによる日常生活活動等の状態や予後の見通し
  • 適切な治療を行っても症状が改善せずに、重篤なそうやうつの症状が長期間持続したり、頻繁に繰り返している場合はその旨を記載

療養状況

  • 通院の状況(頻度、治療内容など)、薬物治療を行っている場合は、その目的や内容(種類・量・服薬期間)や服薬状況
  • 通院や薬物治療が困難又は不可能である場合は、その理由や他の治療の有無及びその内容
  • 入院している場合は、入院時の状況(入院期間、院内での病状の経過、入院の理由)
  • 病棟内で、本人の安全確保などのために、常時個別の援助が継続して必要な場合はその旨を記載
  • 在宅での療養状況
  • 在宅で、家族や重度訪問介護等から常時援助を受けて療養している場合はその旨を記載

生活環境

  • 家族等からの日常生活上の援助や福祉サービスの有無
  • 入所施設やグループホーム、日常生活上の援助を行える家族との同居など、支援が常態化した環境下では日常生活が安定している場合でも、単身で生活するとしたときに必要となる支援の状況

 

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精神の障害に係る等級判定ガイドライン

障害年金の申請(請求)では「精神の障害用の診断書」を使用します。

診断書の裏面には「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」という評価項目があり、障害年金の審査では重視されています。

日常生活能力の判定

「日常生活能力の判定」とは、「日常生活の7つの場面」における制限度合いをみるものです。単身で生活した場合にどの程度(下記1〜4)の支障があるのか判定されます。
※ 単身で生活するとしたら可能かどうかで判断します。

適切な食事 配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。
身辺の清潔保持 洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる。また、自室の掃除や片付けができるなど。
金銭管理と買い物 金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり、計画的な買い物がほぼできるなど
通院と服薬 規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることができるなど。
他人との意思伝達及び対人関係 他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行えるなど。
身辺の安全保持及び危機対応 事故等の危険から身を守る能力がある、通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて、適正に対応することができるなど。
社会性 銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また、社会生活に必要な手続きが行えるなど。
1 できる
2 自発的に(おおむね)できるが時には援助や指導があればできる
3 (自発的かつ適正に行うことはできないが)助言や指導があればできる
4 助言や指導をしてもできない若しくは行わない

日常生活能力の程度

「日常生活能力の程度」とは、日常生活全般における制限度合いを評価するものです。

(1) 精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが、社会生活は普通にできる。
(2) 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。
(3) 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。
(4) 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。
(5) 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。

精神の障害に係る等級判定ガイドライン

精神の障害年金の認定で定められている「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、「精神の障害用の診断書」の裏面にある「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」に応じて等級の目安が設定されています。

具体的には、「日常生活能力の判定」の4段階評価について、障害の程度の軽い方から①~④の数値に置き換えて平均値を算出し、「日常生活能力の程度」の(1)~(5)と合わせて等級の目安を定めます。

ただし、これらの目安は参考値に過ぎず、実際の等級は、診断書の内容や「病歴・就労状況等申立書」などを総合的に評価して決定されます。つまり、目安と実際の認定結果が異なることがあるために注意する必要があります。


【障害等級の目安の具体例】

例えば、下記のようなの評価の場合、日常生活能力の判定は、適切な食事「④」+身辺の清潔保持「③」+金銭管理と買い物「③」+通院と服薬「②」+他人との意思伝達及び対人関係「③」+身辺の安全保持及び危機対応「②」+社会性「③」)÷7=2.85が平均値となり、日常生活能力の程度の(3)と合わせて、等級の目安は「2級または3級」程度とされます。

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障害年金の申請(請求)の進め方

障害年金を申請(請求)の進め方は次のようになります。

  1. 「初診日」を調べる。
  2. 受診状況等証明書取得する。

  3. 病歴・就労状況等申立書」作成する。
  4. 診断書(精神の障害用」の作成を病院に依頼する。

具体的な手順はこちらのページで解説していますので、ご確認ください。

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うつ病で障害年金を申請(請求)するポイント

ポイント1 初診と障害年金の申請時で傷病名が異なる場合

うつ病の場合、初診と申請時の医療機関で傷病名が異なっていることがよくあります。

弊所がこれまでサポートしてきた事例でも、初診時の傷病名として、「不眠症 自律神経障害疑い」や「片頭痛 耳鳴り」などがあります。

「受診状況等証明書」の傷病名とうつ病との間に関連がまったくないような場合は、うつ病の初診日証明としては認められない可能性がありますが、全く同一である必要はありません。

ただし、「受診状況等証明書」の傷病名とうつ病の関連が疑われる可能性のある場合には、傷病(発病)の経過を「病歴・就労状況等申立書」で詳細に記載した方がよいでしょう。

ポイント2 うつ病と他の精神疾患が併存しているケースの場合

精神の疾患は多種で、かつ、同一疾患であっても症状は様々です。

例えば、統合失調症やうつ病の治療中に発達障害が分かった方、発達障害だと診断された方がうつ病になった方など、症状が複雑に絡まっていることが多くあります。このような場合、両者が同一疾患と見なされるのか、それとも別疾患と見なされるかによって、初診日の扱いが変わってきますので注意が必要になります。

「発達障害とうつ病」「知的障害とうつ病」など、精神疾患が併存している方は、次のリンク先で解説していますので確認してください。

さらに詳しく>> 知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合

ポイント3 日常生活の状況が診断書に反映されていますか?

障害年金の審査では、診断書裏面の「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」の評価が重視されます。

これらの評価に応じて等級の目安が定められ、最終的な等級判定は、診断書等に記載されている他の要素も含めて総合的に評価されることになります。

はたして、月に数度の診察で日常の生活状況を伝えているでしょうか?

例えば、症状が消失している際に受診をしていた場合や、医師の前では元気にしていることはないでしょうか?

このような場合には、日常の生活状況を適正に反映されない診断書になっている可能性があります。

診断書の作成を医師に依頼する際には、「日常生活能力の判定」にある日常生活上の7つの項目がどのような伝えておくことが大切になります。

ポイント4 病歴・就労状況等申立書で日常生活の困難さを申し立てていますか?

「病歴・就労状況等申立書」は、日常生活上の困難さを記入するためのものといえます。

「病歴・就労状況等申立書」の内容によっては不支給になってしまったり、等級が決まる場合があります。

日常生活がどのように困難になっているのか、先に説明した審査で考慮される項目を考えて丁寧に記載していきましょう。

さらに詳しく >>  病歴・就労状況等申立書の記入方法

ポイント5 うつ病で単身生活(独居)の場合は障害年金2級は難しい?

障害年金で2級の障害の程度は「日常生活に必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度」とされています。

うつ病で単身生活(独居)の場合は、「日常生活が単身で可能=日常生活は困難ではない」と判断される可能性があります。

例えば、日常的に家族等の援助や福祉サービスを受けることによって生活ができている場合(家族等の援助や福祉サービスを受けていなくても、その必要がある状態の場合も含む)は、それらの支援の状況を申し立てるようにします。

また、単身生活(独居)となった理由や独居になった時期なども申し立てた方がよいでしょう。

ポイント6 強迫性障害や適応障害、不安障害などの診断を受けている場合

強迫性障害や適応障害、不安障害などの神経症の場合、障害年金では、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として認定の対象とされません。

神経症とは、ICD10 国際疾病分類表では「F4」〜「F6」の分類となっています。

ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱われます。

診断書の傷病名(ICD-10の欄)に「F4」~「F6」の診断名となっていた場合であっても「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」 または「気分(感情)陣害」の病態を示しているときは、 診断書の⑬備考欄にその旨と、示している病態のICD-10コードを記入することで認定の対象となる場合があります。

ポイント7 就労していても障害年金を受給できる可能性はあります

就労していても障害年金を受給できる可能性はありますが、就労している事実のみによって日常生活能力が向上していると見られたり、障害の状態が軽くなっていると判断されたりすることがあります。

就労中で障害年金を申請(請求)する場合、障害認定基準に記載されているように、仕事の種類や内容、就労状況、仕事場での援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを審査側に伝える必要があります。

さらに詳しく >>  障害年金「精神の障害」と「就労」の関係

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うつ病で障害年金の申請(請求)をサポートした事例

弊所が担当させていただいた案件をご紹介いたします。

障害年金は寝たきりでないと支給されない?

「寝たきりでないと障害年金を受給できない」と医師から説明されていた。
医師が障害年金のことを誤解している典型的な事例であり、当初は診断書を書いてもらえなかった。

初診日が厚生年金加入中であることから3級の等級があること。3級の基準が「労働に制限を受けること」となることを説明した。請求人は休職を何度も繰り返しており、請求時も休職中であることからが続いており、3級以上は受給できる可能性があると丁寧に説明した。
診断書を依頼してから2ヵ月以上は経過したが、診断書を取得することができた。

請求人は、休職と復職を繰り返しており、復職している期間も有給休暇を取得しながらなんとか就労していた。

このことを審査側に伝えるため、休職の期間、有給休暇の取得日、賃金の変動などの資料を添付し、就労不能の状態が続いていることを説明した。(障害厚生年金2級)

>>  その他のうつ病の方の障害年金事例集

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ご不安な方は障害年金の専門家への相談をしましょう

実際に障害年金を申請(請求)する際には、障害年金に関する知識を抑えた上で、年金事務所へ足を運び煩雑な処理を正しい手順で進めていく必要があります。

障害年金は複雑で一般の方には難しい点も多々あります。不安や分からないことがある場合は、障害年金を扱っている専門家(社会保険労務士など)に相談しましょう。

最終更新日:

投稿者プロフィール

松田康
松田康社会保険労務士 (障害年金専門家)
かなみ社会保険労務士事務所
社会保険労務士 27090237号
年金アドバイザー
NPO法人 障害年金支援ネットワーク会員

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