広範性発達障害(ADHD・ASD)で障害年金を申請(請求)する方法を解説 | かなみ社会保険労務士事務所
広範性発達障害(ADHD・ASD)で日常生活に支障がでている場合には障害年金の対象になります。ここでは、広範性発達障害(ADHD・ASD)で障害年金を申請(請求)する場合の障害年金の基準や手続きのポイントを解説します。
広範性発達障害(ADHD・ASD)の障害認定基準は
広範性発達障害(ADHD・ASD)における障害認定基準は次のようになっており、それぞれの等級によって支給額が決まります。※3級は障害厚生年金のみ 支給される障害年金額は等級別の障害年金の年金額をご参照ください。
等級 | 障害の程度 |
---|---|
1級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの |
2級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの |
3級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの |
・発達障害については、たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行う。
・発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱は行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。
・発達障害は、通常低年齢で発症する疾患であるが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とする。
・日常生活の能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮のうえ、社会的な適応性の程度によって判断する。
障害年金の審査で考慮される項目
広範性発達障害(ADHD・ASD)に関する障害年金の審査では、以下の要素が考慮され、等級が決定されることになります。
障害年金の申請(請求)時には、これらの項目を「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」などを通じて審査側に適切に伝える必要があります。
共通事項
- ひきこもりについては、精神障害の病状の影響により、継続して日常生活に制限が生じている場合に考慮されます。
病状又は病態像
- 知能指数が高くても日常生活能力が低い(特に対人関係や意思疎通を円滑に行うことができない)場合は、それが考慮されます。
- 不適応行動を伴う場合には、診断書の ⑩「ア現在の病状又は状態像」Ⅶ知能障害等またはⅧ発達障害関連症状と合致する具体的記載によって審査で考慮されます。
- 臭気、光、音、気温などの感覚過敏によって、日常生活に制限が認められる場合は、それが考慮されます。
療養状況
- 通院の状況(頻度、治療内容など)。
- 薬物治療を行っている場合は、その目的や内容(種類・量・期間)や服薬状況など。
- 通院や薬物治療が困難又は不可能である場合は、その理由や他の治療の有無及びその内容など。
- 入院している場合は、入院時の状況(入院期間、院内での病状の経過、入院の理由など)。
- 著しい不適応行動を伴う場合や精神疾患が併存している場合は、その療養状況。
生活環境
- 家族等の日常生活上の援助や福祉サービスの有無。
- 独居の場合には、その理由や独居になった時期。
- 入所施設やグループホーム、日常生活上の援助を行える家族との同居など、支援が常態化した環境下では日常生活が安定している場合でも、単身で 生活するとしたときに必要となる支援の状況が考慮されます。
就労状況
- 労働に従事していることをもって、 直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力が判断されます。
- 仕事の内容が専ら単純かつ反復的な業務であれば、それを考慮されます。
- 執着が強く、臨機応変な対応が困難である等により常時の管理・指導が必要な場合や、仕事場での意思疎通の状況などが考慮されます。
精神の障害に係る等級判定ガイドライン
障害年金の申請(請求)では精神の障害用の診断書を使用します。
診断書の裏面には「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」という評価項目があり、障害年金の審査では重要視されています。
日常生活能力の判定
「日常生活能力の判定」とは、日常生活の7つの場面における制限度合いをみるものです。単身で生活した場合にどの程度(下記1〜4)の支障があるのか判定されます。
※ 単身で生活するとしたら可能かどうかで判断します。
適切な食事 | 配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。 |
---|---|
身辺の清潔保持 | 洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる。また、自室の掃除や片付けができるなど。 |
金銭管理と買い物 | 金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり、計画的な買い物がほぼできるなど |
通院と服薬 | 規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることができるなど。 |
他人との意思伝達及び対人関係 | 他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行えるなど。 |
身辺の安全保持及び危機対応 | 事故等の危険から身を守る能力がある、通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて、適正に対応することができるなど。 |
社会性 | 銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また、社会生活に必要な手続きが行えるなど。 |
(1) | できる |
---|---|
(2) | 自発的に(おおむね)できるが時には援助や指導があればできる |
(3) | (自発的かつ適正に行うことはできないが)助言や指導があればできる |
(4) | 助言や指導をしてもできない若しくは行わない |
日常生活能力の程度
「日常生活能力の程度」とは、日常生活全般における制限度合いを評価するものです。
1 | 精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが、社会生活は普通にできる。 |
---|---|
2 | 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には、援助が必要である。 |
3 | 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。 |
4 | 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。 |
5 | 精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である。 |
精神の障害に係る等級判定ガイドライン
精神の障害年金の認定において使用される「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では、「精神の障害用」診断書の裏面の「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」に応じて等級の目安が定められています。
【障害等級の目安の具体例】
例えば、下記のようなの評価の場合、日常生活能力の判定は「(2+2+3+3+4+3+3)÷7=2.85が平均値となり、日常生活能力の程度の(3)と合わせて、等級の目安は「2級または3級」程度とされます。
障害年金の申請(請求)の進め方
広範性発達障害(ADHD・ASD)で障害年金を申請(請求)する場合、手続きの進め方は次のようになります。
- 「初診日」を調べる
- 「受診状況等証明書」取得する
- 「病歴・就労状況等申立書」作成する。
- 「診断書(精神の障害用」の作成を病院に依頼する。
具体的な手順はこちらのページで解説していますので、ご確認ください。
広範性発達障害(ADHD・ASD)で障害年金を申請(請求)するポイント
ポイント1 広汎性発達障害(ADHD・ASD)の初診日は?
幼少期に、両親が子どもの発達状況を心配して医師に診てもらうことになった場合、その日が初診日となり、20歳傷病として障害基礎年金の申請(請求)になります。
一方で、幼少期から発達障害の特徴があったとしても、その時点では医師に診てもらわず、20歳以上になって初めて診察を受けた場合は、その日が初診日となります。例えば、学校を卒業して働き始めてから、社交性やコミュニケーションの難しさに気づき、発達検査や医師の診察を受けた場合は、その日が初診日となり、障害厚生年金の申請(請求)となります。
ただし、発達障害でも知的障害を伴う場合は、初診日は「0歳」とされ、障害基礎年金の申請(請求)とされます。
初診日 | 申請(請求)方法 |
20歳前 年金制度に未加入 | 障害基礎年金として申請(請求) |
20歳前 厚生年金に加入 | 障害厚生年金として申請(請求) |
20歳後 国民年金に加入 | 障害基礎年金として申請(請求) |
20歳後 厚生年金に加入 | 障害厚生年金として申請(請求) |
知的障害を伴う場合 | 障害基礎年金での申請(請求) |
ポイント2 発達障害と他の精神疾患が併発している場合の初診日は?
発達障害と別の精神疾患が併発することはよくあります。
複数の精神疾患が同時にある場合、障害年金の取り扱いは次のように扱われます。
- 発達障害と診断された方が、うつ病などの他の精神疾患を併発した場合は、同一疾病と考えられ、発達障害で初めて受診した日が初診日と扱われます。
- うつ病などの精神疾患診断されていた方が、後から発達障害だと分かった場合は、診断名の変更であるとみなされ、うつ病等の精神疾患で初めて医師の診察を受けた日が初診日と扱われます。
- 知的障害である者が、後からうつ病となった場合には、先天性の障害とされ、初診日が「0歳」と扱われます。
ここに挙げた例はあくまで一例であり、実際にはさまざまなケースがあり、取り扱いも異なることがあります。
発達障害と他の精神疾患が同じ疾病として扱われるか、それとも別の疾病として扱われるかによって、初診日や障害認定日が異なり、それに応じて申請(請求)書類も変わりますので、ご注意ください。
ポイント3 日常生活の状況が診断書に反映されていますか?
障害年金の審査では、診断書の裏面にある「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」の評価が重要です。ご自身の日常生活の状況がこれらの評価にどう反映されているかを確認しましょう。
日常生活の困難さを口頭でうまく伝えることが苦手な方は、それを文書にまとめて医師に渡すことも一つの方法です。
ポイント4 「病歴・就労状況等申立書」で日常生活の困難さを申し立てていますか?
「病歴・就労状況等申立書」は、日常生活上の困難さを記入するためのものです。
「病歴・就労状況等申立書」の内容によって不支給になってしまうことや、等級が決まる場合もあります。日常生活がどのように困難になっているのか、先に説明した審査で考慮される項目を考えて、気を抜かずに丁寧に記載していきましょう。
ポイント5 働いていると支給されない?
発達障害の障害年金認定基準では就労に関して以下のように記載されています。
「就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。」
障害年金を申請(請求)する時に就労している場合には、「診断書」や「病歴・就労状況等申立書」などに、上記の内容を審査側に伝えることが重要になります。
可能であれば、現在就労している職場の上司や同僚などに、職場での就労状況や支援の内容などを文書にしてもらえればよいでしょう。
さらに詳しく >> 障害年金「広汎性発達障害」と「就労」の関係
広範性発達障害(ADHD・ASD)で障害年金をサポートした事例集
弊所が担当させていただいた案件をご紹介いたします。
https://kanami-office.com/cases/6159/
ご不安な方は障害年金の専門家への相談をしましょう
実際に障害年金を申請(請求)する際には、障害年金に関する知識を抑えた上で、年金事務所へ足を運び煩雑な処理を正しい手順で進めていく必要があります。
障害年金は複雑で一般の方には難しい点も多々あります。不安や分からないことがある場合は、障害年金を扱っている専門家(社会保険労務士など)に相談しましょう。
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